そんな話をしていると、ようやくサンジが戻って来た。

「う〜っ寒っ!……って、ウソップ♪見張り交代したのか」

両手一杯に野菜や肉を抱えたサンジは、足元が見えにくい為か少しよろめきながら…シンクへとたどり着いた。

「ああ、先刻ゾロと交代したんだ」

寒かったろ〜と言いながら、サンジは夕食の下ごしらえを始める。

「じゃあ、私は戻るわね。とても楽しかったわ、またね♪」
「お?おお、またな♪」

そう言ってロビンが出て行くと、キッチンにはサンジが使う包丁の音や鍋の煮える音だけが響き…それはまるで、母ちゃんが生きていた頃のような雰囲気で…先ほどまで子供時代の話をしていた事も手伝ってか、少しだけしんみりしてしまった。
そんな空気を振り払うように…残っていた紅茶を飲み干すと、俺様はシンクへと近づいた。

「な、サンジ」
「ん?なんだウソップ…ああ、カップならそこらにでも置いといてくれ」

丁度、人参の皮を剥きに掛かっていたサンジが空いていたシンクの隅を目で示したので,俺様は言われた通りカップを置いた。
相変わらずの鮮やかな包丁捌きを見ながら、俺様は、つい溜息を漏らしてしまい…

「どした?」
「えっ…?」

視線は手元に向けたままだし、聞き方もぶっきらぼうだけど…それでも、俺様の事を気遣ってくれているサンジに…俺様はつい、先ほどのナミやロビンとの会話を話してしまった。
話したからといって、二人…特にロビンに言ってしまた言葉が消えるわけじゃ無いが、誰かに聞いて欲しかったのも確かで…

「そりゃ、仕方がねぇさ」
「仕方が無い?」

黙って聞いていてくれたサンジは、話が終わった途端そう言った。

「人間ってのは、誰しも同じ道を歩いて生きてきた訳じゃねぇだろ」

人の生き様は千差万別。
同じものなど、有り得ない。
それが例え、良い道でも悪い道でも…だ。

「俺だって、子供の頃からコック見習いやってたからさ…お前見たみたく、ガキ連中と遊んだり…なんて、一度も無かったぜ」

そう言われてサンジの顔を見れば、其処には責めている風も無く…ただ一例として挙げたんだぜ?と、逆にバツの悪そうなサンジがいた。

「そっか…そうだよな。俺様………」
「でもよ!」

俺様の言葉を遮って、サンジは大きな声を出した。

「お前じゃ到底経験出来ない様な事、俺だってしてるんだぜ?」

へ…?と思っていると、サンジは子供の様に瞳をキラキラさせながら話し出した。

「雪が降るとよ、どうしても客足が遠のくだろ?そこで考案されたのが、雪像祭りさ♪」
「雪像祭りィ〜?」

サンジの話によると…コックを何人かのチームに分け、それぞれが雪像を作るらしい。出来上がった像は、お客の投票で順位が決められ…見事bPに輝いたチームには、一日休みが貰える…という物だったらしい。

「投票してもらったお客も、抽選で2000ベリーの割引券が当たるようにしてさ、結構好評だ
ったんだぜ〜♪」
「お前も作ったのか?」
「当然!休みが貰えるんだぞ?どいつもこいつも気合入りまくりで参戦してたからな〜」

俺のいたチームは、優勝確率が高かったんだぞ!と誇らしげに笑うサンジに、俺様も楽しくなってきた。

「どんなのを作ったんだ?雪像なら俺様も得意だぜ♪」
「毎年、テーマがあってな?そうだなぁ…一番の大作は……」

サンジは調理を再開しながらも、バラティエで過ごした冬の日々を話してくれた。
俺様も下ごしらえを手伝いながらも、会話にのめり込んでいった。







いつもどおりの賑やかな夕食も終わり、今夜もキッチンでの雑魚寝へと突入した。
皆とうに眠りに就き、キッチンの中には個性溢れる寝息だが響いている。
…約一名を除いて。





(…………駄目だ、眠れねぇ……)





俺様は(もう何度目になるのか解らない)寝返りをうちながらそう思った。
何がどう駄目なのかは自分でも判らないが…俺様の目蓋は、重たくなる事も無く…それ所かますます冴えていくのだった。
寒い…と言う分けでも無いが、温かい飲み物でも飲めば寝れるかも…と考えるも、如何にせん此処はキッチン。ガチャガチャとカップやら鍋を触ろうものなら、皆を起こし兼ねない。
壁の外では時折風が吹き抜け、扉をガタガタと揺する。
俺様は毛布を被りなおすと、皆に気付かれないようそ…っとキッチンを抜け出した。       





一歩外に出ると、冷気が全身を包み込む。
その寒さに首を竦めながらも仰げば、今だ厚い雲に覆われた空は白く薄暗かった。

「………降ってきそうなのに………なあ………」

そう呟く度に吐き出される息は白く、あっと言う間に空気中に溶け込んでいく。
それを見るとも無しに手摺へともたれ掛かった俺様は、ぼんやりと昼間の事を思い出した。
サンジの言う通り、人生とは人それぞれ。
俺様みたいにのんびりとした村で子供時代を過ごしたヤツばかりじゃない…って事は判っている…つもりだった。




            「……判ってなかったのは、俺様だけか………」




楽しい思い出。
これから作ればいい…と、ロビンは言ってくれた。
確かにそれは間違っていないが、それでも…嫌な思いをさせてしまった事に変わりは無く。
…気合が足らない証拠かな…と、自嘲気味に思った時…微かに扉の軋む音がした。
風か?と思った次の瞬間…後ろから抱きしめられた。


「……っサンジ!?」
「正解〜♪」


微かに香る煙草の香りで相手が誰であるかは分かったが…だからと言って、サンジの腕が緩む訳でもなく…

「……いつまで抱きついてんだよ………」
「だぁ〜って、寒いんだモン♪」

今夜は特に冷えるよな〜…などと空惚けるサンジに、俺様は渋々毛布を広げてやった。

「…ホラ、さっさと入れよ。風邪引いても知らねぇぞ」
「サンキュー♪」

サンジが入って来ると、瞬間的に暖かい空気が逃げひやりとした冷気が浸入して来たが、人間二人分の体温のお陰ですぐに暖かくなった。
しばらくは二人無言でいたが、やがて俺様の方が沈黙に耐え切れなくなってしまい…

「…ね、眠らないのか?」
「そう言うお前は?」
「俺様は…」

目が冴えちまってさ…と言葉を濁すと、サンジは「じゃあ俺も」と抜かしやがった。

「じゃあって何だよ……」
「ん?良いじゃねーか、別に♪」

二人の方が暖かいだろ?と俺様の顔を覗き込んで来るサンジに、ドキリとさせられる。
しかしそんな事を悟られてなるものか…と、そのまま返事をしないでいると…何を思ったのか、サンジは猫がじゃれ付くみたいに頬を摺り寄せて来たのだ。

「ちょっ!冷てぇって…ひゃあっ!!」
「そう言うお前だって、メチャクチャ冷てぇじゃねーか」

お互い外気に晒され冷え切っていた頬をくっつけ合ったものだから、首筋から背中にかけて寒気が走ってしまう。
右手で毛布を掴んでいるので、空いている左手でサンジの頬を押し退ける。

「ああもうっ、冷てぇって言ってんだろ!」

本気で怒っている訳じゃないと分かっているから、サンジもニヤニヤしながら頬を離す。
やれやれ…と思ったのも束の間。
その代わり…とばかりに腕が伸びてきて、俺様の肩を抱きこんでしまったのだ。

「オイ…」
「な、ウソップ」

俺様が抗議しようとする声を遮って、サンジが耳元で囁いた。





「……雪、降るといいな♪」






俺様は弾かれたようにサンジの顔を見上げた。






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