君と見た雪の夜に…

海面を渡る強い風が、見張り台にいた俺様の鼻先を掠めて行き…そのあまりの冷たさに思わず体を竦ませた。
視界に広がる空は、普段であれば海の色を写し取ったかの様な青色なのだが…今は一面、白く厚い雲に覆われていた。

「雪…降るかな……」

つい先日まではポカポカ陽気だったのに、一昨日の朝には甲板のバケツに薄っすらと氷が張っていたくらいで…あまりの寒さに、昨夜は船の中で一番暖かいキッチンに全員が集まり、ダンゴ状に固まって眠ったのだ。
今だって、見張り当番じゃなかったら速攻キッチンへ帰りたい…と先刻まで思っていた俺様だったが、雪が降るかも…と考えると少しワクワクしてきた。
我ながら現金だよな…と考えるも、期待感は膨らんでいくばかりだ。
雪は、白くって…冷たくって…フワフワしてて……大人たちに言わせれば、やれ雪掻きが大変だの、洗濯物が干せないだの、転ぶから危ない…と、欠点だらけなんだろうけど。
でも、それでも俺様は雪が好きだ。
シロップ村にいた頃は、旧ウソップ海賊団と一緒に様々な遊びをした物だ。
雪の遊びと言えば、定番の雪だるま造りにカマクラ。滑り台も作成したし、勿論スキーやソリ遊び、雪合戦もした。時には巨大なツララで戦いゴッコもしたものだ。
そんなに豪雪地帯、という訳じゃなかったから、尚更雪は嬉しかったのだ。

「アイツら…元気かなぁ…」

懐かしい面々を思い出していた俺様の耳に、微かにマストを登る音が聞こえてきた。

「よう、交代だぜ」
「おっ、サンキュー」

登ってきたのはゾロだった。
俺様は座っていた場を譲ると、かなり冷たくなっているマストを慎重に滑り降りる。
途中、船首の方を見遣れば…一応ジャケットは羽織っているものの、足元は普段通りの素足に草履…という、まあ何とも見ているこっちが寒くなってしまうような格好で『お気に入り』の場所にぶら下がるルフィの姿が見えた。
…アイツの神経ってどうなってんだろう…とか思いながら無事甲板へと降り立った俺様は、急いでキッチンへと移動する。
ノブに手を掛けようとした時、それは勝手に動き…中からナミがひょっこり顔を出した。

「あらウソップ、見張りご苦労様。何も変わったこと無かった?」
「おう、今のところ異常ナシだぜ」
「了解、異常なし…っと」

手にしていた海図とログポースを見比べながら船首を見詰めるナミの視線は、空に向けられていた。優秀な気象予報士でもあるナミなら、今後の天気予報も確実だよな…と考えた俺様は聞いてみた。

「なあ、この調子だと雪降りそうじゃねェか?」
「そうね…確かに今、この上空は雪雲よ。でも今は、風が正面から吹いているから大丈夫。この風がやや西向きのなると…この先降らないとも限らないわね」

ナミの口ぶりから、雪に降って欲しくない…というニュアンスを感じ取った俺様は、再度ナミへと質問した。

「なあ、お前って雪嫌いなのか?」
「え…雪?」

質問の内容が突然変わったので、ナミは面食らった顔をしていたがすぐに頭を切り替えたようで、雪の問題点を次々と指摘してきた。

「嫌いといえば嫌いかしら?だって、降れば当然船体にも積もるでしょ?雪掻きすれば良いかもしれないけど…この船全てをやろうと思ったら、結構な労働だと思わない?でも怠ると船体に余分な重量がかかるから、いい筈も無いわ」

確かに、積荷は軽い方が船の進みも良いし、全体の痛み方にも差が出ようと言う物だ。

「それに、雪が降るような気温だと水も凍るって事でしょ?船体が凍りつく事もあるだろうし海が時化る時もあれば、視界も悪くなる…とまあ、こんな所かしら?」

ナミの言う事は航海士の立場からすれば、どれも大切な事ばかりだった。
しかし何もそこまで嫌わなくとも…と思い、雪の弁護をすべく俺様が口を開きかけた時…扉が開いたかと思うと、チョッパーがひょっこり顔を出した。

「何話してんだ?二人とも」

寒いから中入ったら?と言いながら見上げるチョッパー。
するとナミが、何かを思い出した様に微笑んだ。

「そう言えばウソップ…私の好きな雪もあったわ」

へ?と思った俺様を他所に、ナミはヒョイ…とチョッパーを抱き上げた。
抱き上げられたチョッパーはと言うと、顔中で疑問を訴えていたが…ナミの行動に逆らうなどと言う恐ろしい行為だけはしなかった。

「ねえチョッパー、あんたの故郷で見た、あの雪…あれは私の今までの人生の中で、一番綺麗な雪だったわ」
「ほんとか?ナミ!」
「ええ勿論♪」

ナミは俺様に「じゃあね♪」と手を振ると、チョッパーを抱っこしたまま階下へと行ってしまった。
その場の取り残される形になった俺様だったが、ナミの言葉に少し胸の中が暖かくなった気がした。
とは言え、寒いことにはなっら変わり無く…俺様はキッチンへと体を滑り込ませた。







「サンジ〜何かあったけぇモン無いか?……って、アレ?」
「コックさんなら、お出かけ中よ?」

てっきりいるものだと思っていたキッチンの主の姿は無く…そこには本を片手に微笑むロビンの姿だけがあった。

「アイツ…そろそろ夕飯の仕込みだってのに、何処行ったんだ?」
「それはね…」

ロビンの話によれば、仕込んでいた材料をルフィによって食われてしまったのだそうだ。

「なんだ…アイツまたやられたのか。ったく、ドジだなぁ…」
「なかなかの攻防戦だったわよ」

フフッ、と楽しそうに微笑みながら、ロビンは紅茶を淹れてくれた。

「はい、外は寒かったでしょ?」
「おっ、サンキュー♪」

温かい紅茶は、冷え切っていた体を内側から暖めてくれた。

「そう言えば…先刻、何を話していたの?」
「ああ、ナミとか?」

俺様は、ドラム島での出来事を交えながら先刻のナミとの会話を話してやった。

「…でさ、チョッパーの故郷で見たその雪を、一番好きだ…ってさ」
「そう、そんな事が…航海士さんがそう言うのも解るわね」

私も見てみたかったわ…と付け加えるロビンに、俺様は同じ質問をしてみた。

「ロビンは雪って好きか?」
「私?…………そうね、まあまあ好きよ?……そんなに良い思い出も無いけどね…」

そう言うとロビンは、少し寂しそうな笑顔を浮かべ…俺様はハッとした。
確かロビンは八歳の時には、もう現在の賞金を懸けられていて…て事は、それより前から海に出てたって事で。俺様が八歳の頃には、自分の村で母ちゃんと一緒にのんびり暮らしていたから…ロビンには、誰しもあって当たり前のような、幼少期の楽しい思い出など存在しないのだろう…
聞いてはいけない事を聞いてしまった事に気付き、俺様が困っているのが伝わったらしく、ロビンはまたフフッと笑った。

「…悪ィ、嫌な事思い出させちまったみてぇで…」
「気にしないで、貴方を困らせたくて言った訳じゃ無いから」

でもよ…と言い渋る俺様に、ロビンはこう付け加えた。

「それに…思い出なら、作ればいいでしょ?」

これからの航海でね♪…と。
その言葉に少しだけ救われた俺様が顔を上げると、ロビンも満足そうに微笑んだ。

「貴方の村では、雪は降ったの?」
「ああ、そんなに沢山じゃなかったけどな」
「どんな遊びをしたの?」
「そうだなぁ…」

俺様の子供時代の話をしてやると、ロビンは楽しそうに聞き入ってくれた。
カマクラを作るコツや、そりの上手な操縦方法。いかに硬く雪玉を仕上げるか…等など、話題は尽きる事は無かった。

「そうそう…スノードロップって知ってる?」
「なんだそりゃ…食べられるのか?」

話の途中、何かを思い出したようなロビンの質問に、名前の響きからして菓子の一種か? と思った俺様はそう聞き返した。

「まあ、食べられない事も無いわよ?但し甘くはないけどね」
「……?ドロップなのに甘くないのか?」

心底不思議そうな俺様に、ロビンはクスクス笑いながらも説明してくれた。







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