
「・・・・・・何の意味なんだかなぁ。」
小指に結ばれている赤い糸を見て、ウソップは小さな溜め息を漏らした。
細く赤い糸の先には何故か上機嫌のコックが鼻歌まじりに食べ終った食器を洗っている。
コトの発端は先日のことだ。
久しぶりの上陸ということでサンジに買出しのお供を頼まれたのだが、島に到着したとたんルフィに強制的に連行されてしまった。
断るにも逃げるにも、ルフィがそんな隙を与える暇もなかったのだが、船に戻ったウソップ達をサンジは思い切り不機嫌そうに出迎えた。内心ありとあらゆる言い訳が浮かんだのだが、相手の形相に恐ろしくてウソップは口にすることができなかった。
で、あの手この手でご機嫌伺いをしたところ、サンジが提案したのが自分の小指とウソップの小指を赤い糸で結ぶというものだった。
引っ張れば簡単に切れてしまいそうな細い糸。
流石に短いと行動が取れないので、糸の長さは五メートルくらいの余裕がある。
だが、それだけでも十分に行動範囲は束縛された。
おかげで今日のウソップはまるでサンジの腰ぎんちゃくだ。
別段いつもと同じ行動をしているだけなのだが、繋がれた糸を意識してしまい何をしても集中しきれない。
さすがにもう気が済んだかと言いたくなるのだが、あの嬉しそうな姿を見るとどうにもやめたいとは切り出せない。
これが惚れた弱みというもので、もう少しだけ付き合ってやるかと思えてしまうのだ。
それに考えようによっては一緒にいる時間が増えるのだし、サンジの姿を目で追っていても怪しまれないのはウソップにとっても役得だと考え直した。
だか、この糸についての疑問は全く別物である。
「なあ、いい加減コレの意味教えろよ。」
「ああ?ただのまじないだ、まじない。」
「まじない?サンジ、そんなもん信じるのか?」
「いいや、信じねェな。んなもんに頼るなら自分の手でとっとと叶えるね。」
「・・・・・・なんか言ってることと、やってることが矛盾してねぇか?」
「いいんだよ。コレはただの自己満足。」
答えにならない答えに首をかしげていると、勢いよくキッチンのドアが開かれ同時に人影が飛び込んでくる。
「ウソップー、暇で死にそうだ!遊ぼうぜっ!!」
「・・・残念だが今はこんな状態だ。悪ぃけどまた後でな。」
「なんだよー、そんな糸。千切っちまえばいいじゃん!」
ウソップは赤い糸に結ばれた手をパタパタと振りながら答えると不満そうにルフィは口を尖らした。そして次の瞬間、ごおっと空気を切り裂く音と風圧が二人の頬を翳めていた。
ウソップとルフィの間にサンジの蹴りがねじ込まれたのだ。
「・・・おい、クソゴム!その糸、千切ったりしたら蹴りコロスぞ!!」
「なんでだ?ウソップだって邪魔そうだぞ?」
ドスの効いた声と剣呑な視線がルフィに向けられ、その鬼気迫るサンジの姿に思わずウソップの腰が上がる。
たかが糸にコレだけ過剰反応するサンジもどうかと思うが、相変らず空気が読めないルフィにも頭が痛い。結局いつも場の収拾をするのはナミか自分なのだ。まあ、ナミの場合は話術というより腕力にものを言わせているだけなのだが・・・。
「ルフィ、この糸は俺が頼んでやってもらってんだ。遊び相手ならチョッパーにでも頼めよ。」
「チョッパーのヤツなら昨日の島で買ってきた本に夢中で遊んでくれねぇ。」
「じゃあ、ゾロは?」
「昼寝。」
「・・・・・・ナミかロビンに相手してもらえ。」
「だってあいつ等難しいゲームしかしてくれねぇもん。」
「頼み込んでババ抜き・・・いや、ジジ抜きでもして貰えよ。とにかく今は付き合えねぇ。」
きっぱりとそう断るとルフィはぶちぶちと言いながらもキッチンを後にしていく。
せっかくサンジの機嫌が良くなりかけていたのに全てがおじゃんにならず、ほっと胸を撫で下ろした。そしてゆっくりと背後を振り向くといつの間にかサンジが自分のイスの向かいに座っている。
ついと視線を上げれば、くすぐったそうに微笑んでいる姿に思わず目を奪われた。
料理を褒められた時でもなく、レディに向けるものでもない。
でも最上級の笑み。
「・・・んだよ、ニヤけて・・・・・・。」
「あん?いいだろ、別に。」
見惚れた恥ずかしさにウソップは咄嗟に悪態をついたが、サンジは気にする様子もなく頗るご機嫌だ。
その態度にウソップはさらに気恥ずかしさを覚えるが、言い返す言葉が見つからない。
大体、赤い糸で繋がれているので逃げる訳にもいかず、諦めて座っていたイスへと腰掛ける。ただし、向かい合うのはどうにも恥ずかしいので背を向けて。
沈黙が続き、なんだか居た堪れない気持ちを持て余していると、甘い匂いが鼻腔をくすぐり驚いて振り返る。するといつの間に作ったのか、見慣れたマグカップが自分の前に差し出された。
「・・・飲むだろ?」
「おう・・・イタダキマス。」
大好きなホットチョコレート。
両手で掴んで口先で甘い匂いを堪能してから口を付ける。
とろりとした黒い液体が口の中に流れ込むと甘さがゆっくりと広がっていく。
息で少しずつ冷ましながら、ことさらゆっくりとそれを味わう。
なんとなく今までの恥ずかしさが薄らいで、気分が落ち着いてきた。
ちらりとサンジを盗み見するとサンジは手にしたタバコを美味そうに燻らせている。
たばこの臭いはあまり好きではない。
でもサンジといる時だけはあまり気にならないのだと思うと自然と苦笑が浮かんでしまった。
「・・・あのな。」
「ん?なんだ?」
「さっき知りたがってただろ?この赤い糸の意味。」
「おう、教えてくれんのか?」
ぼそりと呟いた声に顔を上げると、神妙な顔にうっすらと頬を染めたサンジがいる。
その様子に首をかしげつつも、ウソップの気持ちは好奇心が勝りサンジの言葉を促した。
そして何か覚悟を決めたようにサンジが口を開きかけた瞬間、またしてもドアが大きく開かれた。
「「うおっ!?」」
「ウソップ!ずるいぞ、一人だけっ!!」
「なっ!?このクソゴム、またしても邪魔すんのかっ!!」
「あら、お邪魔してしまったの?ゴメンなさい。」
「え!?ロビンちゃんっ!!いえ・・・その、邪魔だなんて・・・・・・。」
「サンジく〜ん、私たち喉渇いちゃったの。何か飲み物作ってくれる?」
「ナミさんっ!!・・・えっとじゃ、すぐに淹れるね。」
凄い形相だったサンジだが、ロビンとナミの顔を見たとたんいつものラブモードに変身して素早くやかんを火にかける。
お湯が湧くまでの間にゾロやチョッパーもキッチンへと集まっていた。食事時や雨でもないのに全員が集まるのはかなり珍しい。
「ね、ウソップ私も指に結んでいい?」
「へ!?何を?」
「決まってるでしょ、赤い糸よ!ルフィがウソップとサンジが糸で繋がってるから遊んでくれないってぼやいてたわよ。」
「ナナナナ・・・ナミさんっ!?」
じゃーん、と赤い糸を手にしたナミに、酷く動揺したサンジの声が狭いキッチンに響き渡った。だが、ナミは全く気にもしない。いや、それどころか酷く嬉しそうだ。
「・・・本当は私も小指がいいんだけど、それはサンジ君に悪いから・・・そうね、薬指でいいわ。」
「一体こりゃなんのまじないだよ?」
「まじない?」
「違うのか?サンジはそう言ってたぞ、なあ?」
「・・・・・・・・・。」
不思議そうに聞き返すナミにウソップはサンジへと振り返る。一方サンジは引きつった笑みを浮かべつつ、懇願するような視線をナミへと向けていた。
「そうね、確かにおまじないではあるわね。」
「なんか意味深だな。結局なんの意味なんだ?」
「ふふ、それはね、ずっと仲良しでいられますようにってことよ。」
「仲良し?」
「そうよ、遠く離れていてもずっと結び合って繋がっていられますようにって意味。そうよね、ロビン?」
「ふふ、そうね。そういう意味ではあるわね。」
嬉しそうな女性人に対して、サンジは顔面蒼白でたらたらと脂汗を浮かべている。微妙に意味合いが違うのかも知れないのだが、否定しないのだからとウソップは敢えて二人に具体的なことを尋ねることはしなかった。
ウソップと同じ気持ちではないにしろ、ずっと繋がっていたいという言葉が嬉しかったからだ。
おかげで、結んである小指を見て思わず口元が緩むのを意識してしまった。
「じゃあ、俺もウソップと結ぶっ!」
「え?」
「じゃあ、俺も結びたい!!」
「えええ?」
「そうね、折角だし私も結んでいいかしら?」
「・・・・・・俺もやっとく。」
「はぁ!?ゾロまでかよっ?」
驚くウソップを尻目にいそいそと全員がウソップの指へと赤い糸を結んでしまう。
じっと両手を見つめるウソップの指先には結ばれたいくつもの赤い糸が伸びている。
これでは本当に身動きを封じられた状態だとウソップは思ったのだが、その糸の先々では妙にご機嫌の仲間達がおり自然と諦めに似た苦笑が浮んだ。
どうやら今日は何もできないこということらしい・。
ふと視線の隅に、赤くなったり蒼くなったりを繰り返した金髪の持ち主が憔悴しきった顔に乾いた笑いを浮かべ、大きな溜め息をつくとふらふらと夕食の準備へと取り掛かっているところだった。
ウソップがこの赤い糸の本当の意味を知ったのはそれからかなりの月日が過ぎてからのことになる。
きりり様宅の3241HITで頂きましたvvvvv
リクが『赤いリボン』と言うあまりにもアバウトだったのにも拘らず…
どうですか!?この素敵仕上がり具合はっっっ!!
赤い糸で結ばれてるんですねvvやっぱそうだと思ってた☆
え?あ、すみません常識でしたねvvv
しかも、イラストだけだと伺っておりましたのに何と何と素敵文章までもッッッ!!!
アタクシは幸せ者ですよう☆
お忙しい中、こないな素敵サンウソをありがとうございましたvvv(>∇<)
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★赤いリボン★
…って言うか、赤い糸?