海賊船のシンボルといえば、やはり海賊旗だろう。
どの船でも必ず一番高い場…メインマスト上に翻っているものだ。
しかし、我が海賊船のもう一つのシンボルと言えるのが、キッチン上部に植えられたみかんの木…通称『ナミのみかん畑だ。』
船上と言う事もあり、常に潮風に晒されている土壌にも関わらず、時節が巡れば甘い実を付ける、逞しく頼もしい木だ。

「私の故郷の木だもの♪」

と、いつもナミが誇らしげに見上げている。
その実を口にする機会は少ないが…それでも、同じ風景ばかりの船上生活に於いては、貴重な癒し空間としてクルー皆に愛される場所なのだ。
だが、土のある場所に必ずと言っても良い程生えてくる物がある。
それが雑草だ。
通常ならば、潮風に晒されている土には生え難いとされているのだが…ナミがみかんの木の為に、と常に手入れを欠かさない大地は養分に満ちているのか、取っても取ってもヤツらは生えて来る。
これは相当の強者と言っていいだろう。
だがしかし、ナミがそんな状況を好ましく思う訳も無く…

「サンジ君、草むしりお願い出来るかしら?」

と、良くサンジに言っている。
サンジは勿論

「うわっかりました!ナミさんのみかん畑は、この騎士サンジが命に代えても死守しますっ!」

と、例によって例の如く、いつもの調子で飛び出して行き…何故か毎回、ソレに付き合わされるのが…俺様なのだ。

「なぁ…なんで俺様までやらなくちゃならねーんだ?」


て言うか、自分のみかん畑なんだからナミがやるのが筋だろうに。
俺様が毎度そう、質問すれば…サンジからもお馴染みの答えが返って来る。


「ナミさんの美しい指を泥まみれになんざ、とんでもねぇだろーが!」


だそうだ。
なら俺様は良いのかよ!
…とは言えなかった。
『勇敢なる海の戦士』が、たかが草むしりで音を上げたとあっては、俺様のプライドが許さなかったのだ。

「オラ、無駄口叩いてねぇで、手ェ動かせよ!」
「ヘイヘイ」

不毛な会話を繰り返しながらも、俺様達は慣れた手つきで草むしりを始める。
互いに同じ所からスタートし、逆の方向へと進み…みかん畑を一周する形で行うのが、いつものコースだ。
密かに、サンジよりも早く終わらせてやる!と、思いながらも、小さな草も気になってつい遅れがちになってしまうのだ。

「今日は負けねぇぞ!」
「へっ、毎度似た様な事言ってるよな」


なにくそ?と思い後ろを振り返るも、サンジのやつはもう作業を開始しており…俺様も慌てて地面と向き合った。






                 *







少しの沈黙は作業に没頭している証で、しばらくすると向かい合わせの格好でウソップの頭が見えてきた。
おお、今日は早いじゃねェか…と思ったが俺もアイツも自他共に認める負けず嫌いで…俺も手元に集中した。
が…


「よっしゃあ!俺様の勝ちだぁ!」


本当にタッチの差で、勝利の女神はウソップに微笑んだ。


「チッ、今日はお前の勝ちか」
「へへーん、どんなもんでい!」

ウソップは、長い鼻の下を泥付きの指先で得意げに擦り上げながら、取り終えた草を小山のように積み上げている。


「この間取ったばっかなのに…結構生えてんなぁ」
「知らねェウチに、種がこぼれてんだろ」

そんなモンかなぁ…と、足元を見回すウソップ。
俺もそれに釣られる様に、地面を見返せば…


「…ウソップてめェ…まだ取り残しがあるじゃねェか!」


途端にウソップの顔が引き攣る。
勝つ為に手抜き…と言うコイツらしくない行動に、少しだけ疑問にも思ったが…俺は迷わずその草を引っこ抜こうとした。


「わーっ!待て待てサンジ!待ってくれっっ!!」


そう叫びながら、ウソップが必死の形相で俺にしがみ付いた。


「あ?んだよ」
「ソレは草じゃねえんだよッ!」


わざと残しておいたんだっ!と、俺を止めようと必死なウソップは…自然、俺に抱きつくような形になっている事にも気付かず、この草を残した理由を話しだす。


「…コイツ、タンポポなんだ!」
「タンポポ?」
「一本位、残しておいてもいいかな〜って思ってさ…」


綿毛飛ばしをしたいんだ!と、尚も訴えるウソップ。
実に子供じみたその理由だが…ふと、ウソップが綿毛飛ばしをしている姿を想像し…良いな…と思った俺も相当だろう。




「…ったく、仕方がねェ。一本だけだぞ?」
「やったぁ!そうこなくっちゃ、サンキュー♪サンジ!」




その時は一緒に飛ばそうな!と言うと、ウソップは草を抱えて倉庫のゴミ箱へと捨てに行ってしまった。
残された俺は、足元のまだ蕾も付けていないタンポポへと話し掛けた。





「…アイツの為にも、クソ綺麗に咲けよ…」





丁度吹き抜けた風に、分かった、と返事したかの様に揺れたタンポポ。
俺もコイツが咲くのが…楽しみになった。







                     *






倉庫へと着いた俺様は、麻袋の中に草を詰めていく。




「…サンジのヤツ、気付いてねェよな……?」




タンポポを残しておいた本当の理由。それは…
あの株を見つけた時、アイツと同じ『色彩』の花だ…等と思ったからなんて、恥ずかしくって絶対言えない。




「……綺麗に咲くと良いな♪」




太陽の花、ダンデライオン。
二人の思いを受けたタンポポが、その小さな黄色い花を開くのは……
もう少しだけ、後の事。






                            〜END〜












2005年GWの増刊ペーパーからのリサイクルです(^_^;)
季節柄、そろそろ限界になって来たのでこの辺りでupしてみました(苦笑)






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