例によっていつも通りに騒がしかった夕食も終わり…キッチンには食後のコーヒーの芳ばしい香りが漂っていた。
そう表記すると、さも静かな様子を想像するだろうが、実際にはそうではなく…先ほどからウソップが、チョッパー&ルフィにせがまれて、得意のウソ話を披露している真っ最中だった。
「…若者がその靴を履き、とん…と地面を蹴るや否や、その体はふわり…と風のように天 空へと舞い上がったのだ!」
「おおっ!すっげえ〜!」
「それでそれで?」
ルフィとチョッパーは、目をきらきらさせながらウソップの話に聞き入っている。
否……そんな素振りを見せないだけで、キッチンにいる他のクルー達も……ちゃんと聞いているようだ。
「その靴はなんと!空飛ぶ魔法の靴で、自由自在に空を駆ける事が出来るという不思議 靴だったのだ!」
「すげえな!履いたらおれも飛べるのか?」
そんな靴が本当にあるかどうかも怪しい物なのに、チョッパーはもう実在する物として考えを巡らせている様で…そして、そんなチョッパーに拍車をかけるようウソップも続ける。
「勿論、それを履けば誰だって大空を駆け巡る事が出来るんだ!……ただし、その際には注意事項が一つある!」
「「ちゅういじこう?」」
同じ方向へ仲良く首を傾げ…ご丁寧に台詞までハモった二人に、ウソップはこう続ける。
「靴のサイズが合わないとな…途中で脱げちまう事があるんだ」
「「……………うわ〜〜〜」」
そこの行を聞いた俺は…小さく笑ってしまった。
しかし…喋る方も聞く方も、大真面目にその様子を創想像してしまった様で、三人共張り付いた様な表情を浮かべていた。
「おれ……落ちたら死んじゃう………」
「俺は…まあ、ゴムゴムの風船使えば…何とか大丈夫かな…?」
「なので、履く時はサイズの確認を怠らないようにな?」
「「は〜い!」」
まるで『空飛ぶ靴』が、其処らの靴屋ででも売っている様な…しかもサイズも豊富に取り揃えられている様なウソップの物言いに、しかしアホ二人は生真面目に返事を返す。
「そして若者は、高い塔に囚われの身となっていたお姫様を救い出し、一躍英雄になったのだ。二人はやがて結婚し、若者は『天空の覇王』と呼ばれたと言う事だ!」
「すんげぇ〜!格好良いな〜!」
「『天空の覇王』!すげぇなぁ!!」
口々にそう言いながらも、やがてルフィはゾロに引っ張られる形で出て行き、女性陣も女部屋へと戻って行かれ…俺は今夜の見張り当番であるチョッパーの為に、先ほどから用意していた夜食の包みを渡してやった。
「オラ、これ持ってけ。こぼさねェ様気ィ付けろよ?」
「ありがとう、サンジ♪」
中身はチョッパーの好きなコーンスープと、野菜タップリのホットサンドだ。
その匂いに青い鼻をヒクヒクさせながら、チョッパーもキッチンを後にした。
そして俺は、シンクへと向き直り…改めて溜息が出るのを止められなかった。
毎度、七人分とは思えない量の皿やらカップの小山。
しかし、これを片さない限り明日の仕込みすらままならず…
「うっし、洗うか!」
「俺様も手伝うぜ」
腕捲りをする俺に、ウソップがそう声を掛けて来た。
「……良いのか?」
「二人でやった方が早いだろ?」
「…サンキュ♪」
俺が食器を洗い、ウソップが洗剤を流す。
何も言わなくともこの役割分担は決まっており…しばらくの間、カチャカチャと食器の触れる音と水音だけがキッチンを支配していた。
*
サンジの手際は流石で、山となっていた食器類は俺様の前の洗い桶にすべて移されていて、残るは鍋やフライパン…と言った大物ばかりになっていた。
サンジに負けないように!と、次の大皿へと手を伸ばした時。サンジは手元に視線を向けたままで話し掛けて来た。
「なあ…さっきの話のさ…『空飛ぶ靴』…もしあったら欲しいか?」
あまりに唐突な質問だったが、俺様は答えてやった。
「当たり前じゃねぇか!空飛べるんだぜ〜♪どんな島だって一ッ飛び!だぞ♪」
「…まあ、そうだな」
「飛ぶだけなら悪魔の実って選択肢もあるけど…トリトリの実だっけか?でもカナヅチは勘弁だし…空飛ぶ靴のが便利だぜ♪」
「……サイズ合ってればだけどな」
「おう、そうだな。脱げたら真っ逆さまだもんな〜」
自分から話題を振っておいた癖に、今イチ乗り気でない返事を返すサンジに…俺様はすぐに違和感を覚えた。
「……サンジ、どうかしたのか?」
「…………ウソップ」
洗い物の手を止めて、サンジが言葉を紡ぐ。
「空飛ぶ靴があったら…オマエは飛んでっちまうのか?」
「へ!?」
サンジは真っ直ぐに俺様を見詰め、こう続ける。
「…俺は、そんなの嫌だからな。オマエがこの船から…俺の前からいなくなっちまうなんて…」
何を冗談言ってるんだ…、笑い飛ばそうとして、サンジの思わぬ真剣さに笑いを収めた。
「…行く訳無ェだろ?だって、俺様の『家』は此処だぞ?」
それに、もしもそんな靴があったら…間違い無くルフィやチョッパーとの争奪戦になるのは火を見るより明らかで…勿論、俺様が負け決定…な所まで、である。
「それによ?もしも、そんな靴履いて飛び出したら…あっという間に、グランドラインなんて一周出来ちまうじゃねェか。俺様の夢は知ってるだろ?」
「ウソップ…」
「それに…」
そこまで話しかけて…俺様はサンジを見た。
サンジは目線だけで「何?」と聞いてくる。
その視線に、思わずドキドキしながら…こんな事を言えば、コイツがどう行動するかなんて…分かってて言う辺り、俺様もアホだなぁ…と思いつつ、言葉を続けた。
「オマエがいるのに…飛んでく訳無いじゃね…………って!?」
「ウソップ〜〜っ!」
泡だらけの手で抱きしめられて、俺様はパニックに陥る。
「ウソップ〜!好きだ好きだ、大好きだ〜〜♪」
「こっ、こら離せっ!…こんの、アホコック〜!!」
尚も密着してくるサンジの頬を濡れたままの手で押し返し、何とか距離を保った。
「ほらっ、さっさと洗い終える!俺様はまだやる事あんだぞ!」
「キスしてくれたら、離してやるよ♪」
「〜〜〜なんでそうなるっ?関係無ェだろ〜が!」
「じゃ、このまま押し倒してOK?」
「…………………………………この………エロコック…………」
コイツなら本当に行動に移しそうな所が笑えず…仕方が無く俺様から、触れるだけの…キッ………キスをしてやった。
サンジは、先程の真面目な顔も何処へやら…デレデレと伸びきった顔をしながらも、取りあえず洗い物を再開した。
もしも空飛ぶ靴が、今、あったら…履いて逃げ出したい…と俺様が思った事は、しかしサンジには……ナイショにしておこう。
END
2003GW合わせのペーパーに掲載したSSです。
舞台設定が、アラバスタ終了直後で、まだ空島の存在を知らなかった頃だと思って下さい。まさかこの後船ごと空を飛ぶハメになろうとは…ネエ(笑)
題名は、何となく語呂が良かったので付けてみましたが…うん、全然内容と合ってませんね(爆)オマケにサンジが…これまた偽者臭、プンプンしてますし(^_^;)てか、この頃から既にヘタレサンジ計画進行中だったのかしら…と、文章打ちながら改めてそう思ってる辺り、無意識の成せる業と言うか何と言うか…笑
空飛ぶ靴…あったら欲しいですが…それよりも欲しいものは、やはり『どこでもドア』ですかね。アレさえあれば、イベの交通費や駐車料金、滞在費用諸々が全て同人に回せます!ればかりか、開場ギリギリまで原稿出来るし、更に遠方の印刷所様にも直接入稿出来ちゃいますヨ♪…なんて、非現実的な夢語るより、もっと計画性を持って行動できる人間に…なれたら良いなあ、と絶対出来そうも無い事を言ってみたり(^_^;)
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空を飛ぶ少年