さながら戦場の様な忙しさを誇る夕食前のキッチンに、チョッパーがひょっこりと顔を出した。
「なあなあ、サンジ!」
「ん?メシならもうちょい待て…って、ルフィに言っとけよ」
てっきりウソップが手伝いに来てくれたと思った俺は、チョッパーに罪は無いにも関わらず…落
胆した。が、そうでないとなると、こんな時間にチョッパーがココを訪れる理由となると…ルフィに
せがまれて、メシの進行状況確認に来る位だと思った俺がそう言うと、チョッパーは「う、うん…」
とだけ返事をし、その場を動こうとしなかった。
「?………もしかして…何か要るのか?」
ナミさんにでも用事を託ったか?思っていると、チョッパーは体の後ろで両手をモゾモゾさせな
がら話を切り出した。
「あのな、サンジ。これ…」
チョッパーの小さな体に隠れてしまう程の小さな包みには、一見してプレゼントだと判る外装が
施されていた。
「…………何?」
どうしてチョッパーが、俺にこんな物をくれるんだ?と言うのが、最初に頭に浮かんだ事だった。
今日は別に俺の誕生日でも無ければ、何かチョッパーに感謝される様な事をした覚えも無かっ
たからだ。
しかし、そんな疑問も解けないままに、チョッパーは次の言葉を紡ぐ。
「いつも美味しいメシ作ってくれて、ありがとな!」
「あ〜そりゃ、まあ…これが俺の仕事だし…ま、とりあえずサンキューな」
無邪気な瞳で見上げてくるチョッパーの気持ちを、無碍に断る事はど出来ず…俺は小さな包みを
受け取った。
「…開けても良いか?」
「うん、きっとサンジ喜ぶぞ♪」
エッエッエッ、と笑いながらチョッパーは俺の手元をジッと見てくる。
簡単な包装の下から出てきたのは、紙で作られた赤い花に囲まれた、一対の鍋掴みだった。
「………………??」
中身を見れば、このプレゼントの理由が判るかと思った俺だったが、これじゃサッパリだ…と思った
矢先、一緒に添えられていたカードの存在に気付いた。
この中に、きっと理由が書かれているに違いない…!と、半ば祈るような気持ちで開いたカードには
…ナミさんの物と思われる文字で『母の日おめでとう』と書かれていた。
………………………母の日…………………?
一気に力が抜けた。
母の日のプレゼントだったとは……!
「あ〜……チョッパー」
「うんっ!気に入ったか?」
「おう、ありがとな。…でさ、何で俺にくれたんだ?俺…一応男だぞ…?」
『母の日』なのに、何故俺?
どちらかと言えば、ナミさんの方がまだしっくり来るのではないか…
そんな俺の質問に対して、チョッパーはオーバーアクション付きで説明してくれた。
「あのな、あのな、おれウソップから『母の日』って言うのがある…って聞いたんだ。で、今日がその
日なんだってさ」
それはカードを見たから分かった。
しかし、何故俺なんだ…と、尚も思っていると、チョッパーは一呼吸置いてから話を続けた。
「でさ、おれ最初はナミにあげるのか?って聞いたら、ナミが違うって言って…」
プレゼントを贈ろう…と思っている本人に聞く辺り、実にチョッパーらしいな…と思った。
「そしたらさ、ナミがサンジにあげるんだ。って、教えてくれたんだ」
「ナミさんが………?」
「うん、この船の『お母さん』はサンジだ…ってさ♪」
「………………………………………ナミさん」
…少し悲しくなった。
そりゃ、感謝されるのは嬉しい事だけど、そのポジションが『お母さん』ってのは…男としては非常
に微妙だ。
しかし、チョッパーには何の罪も無く…俺は精一杯の笑顔を浮かべた。
「…そっか、大切に使わせて貰うぜ♪」
幾分縫い目の粗い鍋つかみは、恐らくチョッパーの手作りだろう。
理由はともあれ、こうして作ってくれる気持ちは大切にしたい。
俺がそう言えば、チョッパーは嬉しそうに笑った。
「良かった、喜んで貰えて♪あ、その花は、ウソップが作ってくれたんだ!んで、カードはナミが書
いてくれたんだよ」
「そっか…なら、お前ら三人には今夜スペシャルデザート作ってやるぜ」
ナミさんだけでなく、ウソップも一枚噛んでいたとは…と思うと、嬉しさが倍増した。
「良いのか?やった〜!きっと二人とも喜ぶぞ♪」
早速教えなきゃ!と、一旦ドアの前まで走って行ったチョッパーだったが…何かを思い出したように、くるり
と向きを変えると、また俺の前に戻ってきた。
「忘れてた!サンジに頼みがあったんだ」
「おう、何だ?俺に出来る事なら手を貸すぜ?」
「来月『父の日』ってのもあるんだろ?おれ、そのプレゼントも作りたいんだ。でも何が良いか分からないか
ら、サンジも一緒に考えて欲しいんだ」
「おう、んな事か。別に構わねェけど…って、父の日?………ルフィにでもやるのか?」
とてもじゃネエが『父』ってガラじゃねえなぁ…と思っていると、チョッパーは「ううん」と首を横に振った。
「ウソップにあげるんだ」
「……ウソップに?」
「うんっ。だって、ナミがそう言ったんだ。この船の『お父さん』はウソップだ…って」
ナミさんが?…と思っていると、チョッパーは楽しそうに続ける。
「サンジは、いつも美味しいご飯作ってくれるから『お母さん』ウソップは、船を修理したり魚を釣ってくれたり
するから『お父さん』なんだってさ」
…確かに理屈的には合っている。
しかし、俺が『お母さん』…と、考え込んだが、『お父さん』がウソップなら……俺達、夫婦だよな…等と
考えて、思わずニヤけてしまった。
「よっしゃ、任せろ!ウソップが喜ぶ様なプレゼント、考えてやるぜ♪」
「ほんとか?ありがとうサンジ♪」
「それとなチョッパー。俺が『お母さん』でウソップが『お父さん』なのは、昼の間だけなんだぞ?」
「え?そ、そうなのか?」
「おう。夜になるとな、俺が『お父さん』に。ウソップが『お母さん』に変身するんだぜ〜」
「変身!?すげえなあ〜!」
瞳をキラキラさせながら、チョッパーは心底感心している。
「でもな、この事は皆…ウソップ本人にもナイショな」
「何でだ?」
「プレゼントあげるんだろ?だったら、ナイショにしておかないとな」
「そうなのか?………なら、ナイショにする!」
よく意味を理解していない風のチョッパーだったが、プレゼントの為…と、納得した様だった。
「さ、俺はまだ夕食の準備しなくちゃならねぇから、ナミさんとウソップに俺が喜んでた…って報
告してきてくれよ」
「おうっ!わかったぞ♪」
チョッパーは勢い良くキッチンを飛び出して行った。
テーブルの上には、三人からのプレゼント。
鍋つかみは、シンク横の棚の上に。
カードは箱と一緒に、大切に食器棚の隅へと収める。
そして、ウソップの手作りという赤い花を、空のコップへと挿しテーブルへと飾った。
「俺が『お母さん』…ね」
チョッパーからこの話を聞いた時のウソップの顔が目に浮かぶ様で…
「待ってろよ、ア・ナ・タ♪スペシャルなプレゼント考えるからな♪」
約一月後に訪れる『父の日』に、愛しの『旦那様』にあげるプレゼントを模索しながら、俺は夕食
準備を再開した。
…勿論、スペシャルデザートの準備も忘れずに♪
END
〜オマケ〜
キッチンに例の用事で行っていたチョッパーが戻ってきた。
「どお?上手くいったでしょ」
「うん、ナミが言った通りに言ったら、サンジ喜んで受け取ってくれたよ!」
「良かったわね、チョッパー」
「うんっ!」
サンジ君に『母の日』のプレゼント。
最初、チョッパーに相談された時は、思わず笑ってしまったが…チョッパーの真剣さに、手を貸したのだ。
しかし、男のサンジ君が母親呼ばわりされて素直に喜ぶとも思えず…
そこで、ウソップを『お父さん』に例える戦法を伝授してやったのだ。
「…ま、本当は逆なんだけどね…♪」
と、思ったが。この事実を知らず素直に喜んでいるチョッパーには、何も言わないでおこう。
ちょうどこのイベが母の日だった事から書き上げた物です。
イベでは、ミニ本の形で無料配布させて頂いた物ですが…ほんの少ししか作らなかった記憶があるので、
ここでコッソリUPしてみたり…持ってらっしゃると言う奇特な…方いると良いなぁ…(^_^;)
てか、サンジ君問題発言!
ウチの基本設定として、チョッパーは何も気付いてない事になってますので(^_^;)
でも、この二人って、本当に夫婦みたいですよね♪
「ウソップ〜、新しい棚作ってくれ」
「おう、任せとけ」
とか、
「サンジ、弁当作ってくれよ」
「ん、分かった」
…とか。うん、これぞ正しく夫婦の会話♪…スミマセンコワレテマス…モノスゴイイマサラデスケド(^_^;)
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〜F&M〜