柔らかな午後の日差しが注ぐキッチンで夕食の下ごしらえをしていると…騒々しい足音が聞こえて来た。
ははぁ…と思っていると、予想通りウソップが入って来た。


「サンジ、ちょっと相談があるんだけどよ〜」
「ん?デートのお誘いか?」


ち、ち、ち、ちがぁーーーーうっ!と真っ赤になりながらも、ウソップはカウンターに座ったので…俺は手元の動きはそのままに話を促した。


「んで?相談ってのぁ何だよ」
「もうすぐ、ハロウィンだろ?」


確かに、後数日でハロウィンが来る。
毎年何らかの形で楽しむ訳だが、今年はどうやら船内で過ごす事になりそうなのであまり規模も大きく楽しむ事は出来なさそうだ。


「でさ、今年も作るんだろ?その…ハロウィン仕様のヤツをさ♪」
「ああ、クッキーやタルト、それ以外にもいくつか考えてるが…何かリクエストでもあるのか?」


毎年、カボチャを使ったクッキーやケーキ、ハロウィンモチーフをちりばめた様々な菓子を提供しているので、今年も勿論作るつもりだった。
今までに作った中から、食べたいものがあれば勿論作る事は可能だし、それがウソップのお願いとあれば…叶えない訳にはいかない。


「や、それはそれで楽しみなんだけどよ〜その…俺様、作ってみてぇ菓子があるんだ…」
「へぇ…珍しいな。でも、たまには良いかもなvvで、一体何を作りてぇんだ?」
「良いのか!?ヤッターーーッ!」


ウソップは嬉しそうに胸元のポケットから、一枚の紙を取り出した。
レシピを用意してくるとは、本格的だな…と思いながら覗き込んだ俺は、その内容に思わず頬が緩んだ。


「…やっぱ、難しいかな?」
「や、大丈夫だと思うぜ?ただ…色を上手く出せるかが問題だな」


作業自体は、二〜三個作れば…手先の器用なウソップなら、すぐにコツを掴めるだろう。
メインとなる材料もこの間寄港したばかりなので余裕はあるし、問題は無いだろうが…美しい色合いは、それこそ混ぜ込んでみないと分からない訳で。
だけど、このレシピ…と言うか、最早設計図を描いたウソップの気持ちを考えると、ちゃんと仕上げたいと思う訳で。


「うし、なら今夜から始めるか。皆にはナイショにしたいんだろ?」
「おう、特にルフィやチョッパーには…驚かしてぇんだ♪」


へへっ、と得意げに鼻の下を擦るウソップに、俺も楽しくなってきた。









                      









思った以上に作業は大変だったが、そこは俺様。
サンジの指導もあって、何とか前日…と言うか、当日の早朝と言うか深夜には全部を完成させる事が出来た。


「で、出来た!ヤッターーーッ!!!」
「お疲れさん、頑張ったじゃねぇか」


そう言いながら…サンジが温かな湯気を昇らせるカップを、俺様の傍へ置く。
ふわ、と薫った紅茶の香りに混ざり…ブランデーの香りがした。


「うわ、良いのか!?」
「熱ィから、気をつけて飲めよ」


カップを持つと、疲れた手にじんわりと熱が伝わって来て…一口啜れば、ブランデーの風味が広がって。
でも、思ったよりも量が少なめなのでアルコールは感じられず、その上品な風味だけを楽しむことが出来た。


「間に合って良かったじゃねーか…どれどれ?」


サンジが俺様の前に並んでいた中から…深い青色をしたそれを持ち上げた。
室内灯に煌めく青色は、今回の中でも一番の出来だと思う仕上がりで…裏表を確かめる様に眺めるサンジの感想が…気にならない訳が無い。


「ん、気泡も入ってねぇし…形も良いし。これなら売り物にも出来るぜ☆」
「ほ、本当か!?良かった〜」


俺様の前には、7色の…所謂棒付きキャンディが並んでいる。
赤に緑。
オレンジにピンク。
紫に黒に、白に…サンジが持っている青を足せば、全部で8色になる。
要するに、我が麦わら海賊団クルー全員の好物&イメージカラーで、ハロウィン用の菓子を作ってみた訳だ。
勿論、これから包装するわけだが…そこも抜かりは無く、黒いコウモリやオバケの形がプリントされている包装紙を用意済みだ。


「にしても、全員見事に色が分かれたな〜」
「へへっ、そうだろ?」


フランキーのイメージだと水色が良かったのだが、それだと青と色味が似通ってしまうので…好物であるコーラを使う事を思いついたのだ。
それが黒のコーラ味。
そして、白がブルックの好きなミルク味になっているのだ。
後は色から予想されるとおり、赤は苺。緑はメロン。
オレンジはそのままオレンジ。
ピンクが桃で、紫はブドウ。
青は悩んだが、サンジが用意してくれたブルーキュラソーを使用して、味自体はレモンにしてみたのだ。


「明日が楽しみだな…きっと皆、喜ぶぞ」
「おうっ!俺様も楽しみだvv」


紅茶を飲み干すと、、腹の中からぽかぽか温まって来た。
カップはあっと言う間にサンジが回収したので、俺様はラッピングを施すべくキャンディーを回収した。


「そろそろ寝ろねぇと…明日は遅くまで騒ぐんだろう?」
「ん…だよな。じゃ、ラッピングは明日の午前中に済ませるかな」


サンジの言う事も最もだし、俺様につき合わせちまってこんな時間になってしまったのだ。
朝が早いサンジの事を考えると、確かにもう寝たほうが良さそうだ。


「今日はありがとな、サンジ☆」
「ん、じゃぁ…」








と言うと、サンジは俺様の腰を引き寄せた。









「ちょっ…えっ!?」
「お礼は、形で欲しいなぁvv」








空いている左手の人差し指で、自分の唇をつん、と突くサンジの仕草は…明らかにキスを強請っている、と分かる。
俺様だって、感謝している訳だし…今までにも何度だってしているのだから、本当に今更…と思うのだが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいし、躊躇ってしまうのだ。
そんな俺様の心情を、しかし見透かす様に…サンジは柔らかく微笑み…その微笑みに引き寄せられるように。
どちらから、と言う訳でも無く自然に…唇が重なった。











「ん………」
「……サンキュvv」











ほんの数秒にも満たない時間なのに、俺様の心臓は鼓動を早めてしまう。
もう一回キスされたら、多分今夜は眠れないだろう…と思ったが、サンジの腕が離れてくれたので、その心配は杞憂に終わった。



「うし、寝るか!明日は手伝えよ?」
「…お、おうっ!任せとけ!」



サンジが明かりを落とす前に、俺様はキャンディーを引っ掴み…それでも、一緒に男部屋まで戻った。
明日の宴に思いを馳せながら…









                        









ハロウィンは大成功だった。
全員が、工夫を凝らした衣装に身を包み…キッチン、女部屋、展望台にそれぞれ陣取ったサンジとロビンとフランキーから、ハロウィン仕様のお菓子を貰い。
その際に俺様作成のキャンディも、クルー全員の手に無事渡り…特に喜んでくれたのが、以外にもブルックだった。


「私、甘い物も牛乳も大好物なんですよ!その両方が味わえるなんてっ!美味しくて頬っぺたが落ちそうですよ〜!!!…あ、頬っぺた無いですけどね〜ヨホホホホ〜」
「ぎゃっはっはっ!ブルックおんもしれぇ〜!!」


どんな行事だろうが、必ず最後には宴会に突入してしまうのが、我が海賊団の良い所でもあり、悪い所でもあり。
山とあった料理も菓子も、その姿を消し…やがてルフィが酔いつぶれる事によって、自然に終宴を迎えた。


「お疲れ、サンジ」
「オマエもな」


サンジにそう声をかけると、逆に労われてしまった。
俺様のした事といったら、昨夜からサンジの睡眠時間を削ってしまった事と…ソレと、手伝いにもならない手伝いを少ししただけなのに。
サンジの方が、朝から沢山の料理に追われて本当に大変だったのに、そう言えるだけの余裕と言うか優しさを感じて…胸の中がほわり、と温かくなった。


「そうだ!あのタルト、目茶苦茶美味かったぞ!
「ん?ああ…オマエがかぼちゃを裏ごししてくれたヤツか♪」
「おうっ!あと、あの薄っぺらいクッキーと…クリームの乗ってたプディングも美味かったなぁ〜」
「そうか♪だったらまた、作ってやるよ」


やった!と俺様が喜ぶと…最後の片づけを終えたサンジが、俺様の方へ歩いて来た。
たったそれだけの事なのに…昨夜の事もあって、ドギマギしてしまう。
そんな俺様の心情には全く気付かないサンジは、隣へと腰を降ろすといきなり切り出した。


「な、ウソップ…ハロウィンの常套句、知ってるか?」
「へっ!?それって…アレだろ?」


ハロウィンの夜は、本来ならオバケに仮装した子供達が各家庭を練り歩き…お菓子をくれないと、イタズラしちゃうぞ!と言う意味合いのあの文句を唱える…筈だ。
その常套句は…


「トリック・オア・トリート…?」
「良く出来ましたvv」


誰もが知っているこの文句を、何故今更聞くのだろうか…?と思っていると、目の前にコルク栓の小さなガラス瓶が置かれた。
中身には、黄色く色付けされた小さなキャンディが沢山入っていた。


「え?コレって…」
「オマエ、自分の分を作らなかったろ?…だから、俺が作ってみたんだvv」


小さな瓶とはいえ、その中身は結構な数が入っている。
蓋を外し改めて中身を見れば…金色にも見まごう美しい光沢を持ったキャンディ達が、室内灯を反してとてもキレイだった。


「すっげーっ!貰って良いのか?コレ…」
「ああ、オマエの為に作ったんだからな」


自分のためだけに、の言葉が嬉しくて…俺様は一粒取り出すとそっと口に含んだ。
かわいい楕円形のそれは、舌の上にで優しく溶け…口中に爽やかなレモンの風味が広がった。


「うん、美味いっ!あ、でもコレって…」
「どうした?」


思わずそう呟いた俺様に、サンジがそう聞いてきた。
別に、何か問題点があるとかそういう意味ではなかったのだが…サンジは気になった様で、じっと俺様の返事を待っている。
言うべきか、本当に悩んだが…でも、嬉しい気持ちが大きかったから…正直に答えた。








「や、あのさ…その、このキャンディもレモン味だし…俺様がサンジに作ったのも、レモン味だったから…一緒だな…って、思って。ウン、それだけなんだけど……って、うわっ!?」








言い終える前に、強い力で引き寄せられ…サンジの顔を間近で確認してしまい、頬が熱くなるのを感じた。







「え、えと……サンジ?」
「ワザとに決まってんだろ?だって…オマエと同じがイイに決まってんじゃねーかvv」







こんなにも恥ずかしい台詞を、真顔でサラッと言えてしまうのが…実にサンジらしい。
勿論そんな事を言おうモノなら、更に恥ずかしい事を連発しそうなので、絶対に言えねぇ…!と思っていたら、サンジがぼそりと呟いた。







「……あ、でもマズッたな」
「何が?」
「オマエからキャンディー貰っちまったから…もう今夜は悪戯出来ねぇな〜と思ってさ」
「なッ?……………………!!」








確かに、俺様の「トリック・オア・トリート」に応えた時点で、俺様がイタズラをする事は無くなったわけだし、それ以前に俺様からのキャンディを受け取っているサンジも、イタズラ出来ないと言う訳で。
しかし、残念そうなその口調とは裏腹に…背中に回されているサンジの手が、怪しい動きをしているのは何故だろう?








「あのなぁ、サンジ…」
「うん?」








俺様がそういうと、サンジは悪戯っぽい光を湛えた瞳で俺様を見て…
サンジがどうして欲しいのか…不本意ではあったが、嫌と言うほどに伝わって来て。
そして、そんなサンジも実にサンジらしいや…と思えて、許せてしまう自分に自分で苦笑した。











「……トリック・オア・トリート」
「ああ、生憎もう菓子は無いから…代わりにキスでどうだい?かわいいオバケさんvv」











俺様が返事をせずとも、既にキスしそうな体勢なのは…ま、この際気にしない事にした。













だって、俺様だって…












サンジとキス














したいから。
















どんなお菓子よりも甘いキスが降って来るまで、あと5秒。
















でも、ハロウィンの夜は…まだ当分終わりそうに無い。



















                                              ★END★










頑張ったよアタシ!間に合ったよ私!
…と、言う訳で、久方ぶりの書き下ろしとなりました☆
何故かハロウィン大好きなんですよね〜別にキリスト教徒って訳でも無いのにな〜
何でだろう?笑


                                  2008/10/31  あゆみ拝

★スウィート・ハロウィン・ナイト★