町の灯が点り始める夕刻。
本来なら、家へと戻らなければならない子供達が、歓声を上げて広場に集まっていた。
手に大小様々な籠や袋を持った子供達は、普段出歩けない時間の町を興味深げに見ている。

「さあ、皆!準備は出来たかィ?」

明らに大人と思われる…子供達の輪の中に立っている所為で、ひときわ大きく見える人物がそう
声を掛けると、子供達は無邪気に返事を返す。
青年が手にしていたラッパを鳴らし、子供達が動き出すと…それまで周囲で様子を見守っていた他
の大人たちは、一斉に家に引っ込む。
子供達は数人のグループに分かれると、思い思いの方角へ駈けていき…閉ざされたばかりの扉を
ノックした。

「トリック・オア・トリート!!!」

その声をまっていたかの様に扉が開かれ…中からは満面の笑顔の家人が顔を出した。

「はいはい、恐いオバケさん達いらっしゃい♪」

扉の前の子供達は、互いの顔を見ながらクスクス笑う。
ドラキュラに魔女、狼男にゴースト。
小さなオバケ達は、一掴み程のお菓子を籠に貰うと、また嬉しそうに隣家へ走る。
この家にも、これから次々に小さなオバケが来るだろう。
そう、今日はハロウィン。
子供たちが主役の、夜のお祭り。

ハロウィンの夜に…

パンプキンパイに、カボチャのタルト。
カボチャプリンに、パンプキンを使用したモンブラン。
多分、一年分のカボチャ商品がこの日に集中してるんじゃないか…と思える様な、ケーキ屋の店頭。
カボチャを模ったキャンディーや、魔女の帽子型の袋菓子。
子供なら、誰でも大好きなハロウィン。
しかし、俺にはそんな思い出がある筈も無く…どちらかと言えば、カボチャの皮むきでうんざりした記
憶しか残っていない。

「ハロウィンねェ…………」

町は、今夜限りのイベントにも関わらず盛り上がっていた。
向かいの八百屋の店先では、大きなカボチャがここぞとばかりに積み上げられ…訪れる客皆が、一
人で五個も六個も買っていく姿が、先程から見えるのだ。
絶対喰いきれないだろうに…何故あんなにも大量に買っていくのだろう。食材を無駄にする事が大嫌
いな俺は、理不尽な怒りすら湧いてしまう。
しかし、そんな事は表面に出さず…営業スマイルを貼り付けて、俺は接客する。
親子連れや、カップルが先程からひっきりなしだからだ。

「すみませーん、このプリン詰め合わせを〜……3パック下さいな」
「はい、ありがとうございます」
「ちょと店員さん!?コッチのロールケーキ、カボチャ入ってるの?」
「はい、生地にも練りこんでございますし、中身もパンプキンクリームになっております」
「じゃあコレを……五本頂戴な」
「はい、ありがとうございます」

正に『飛ぶように』と表記するのが正しいだろう。ショーケースの中身は、夕方を迎える頃には9割方が
空となってしまった。
売るものが無くなったのなら、店仕舞いし俺も一日の労働から開放されるのだが…今日だけはこれか
らが本番なのだ。そうこうしているうちに、店長が店の奥から大きな箱を運んできた。

「さてと、これからがお楽しみだぞい♪」
「店長…その格好……」

初老に入ろうかと言う店長の頭には…ふわふわと不安定に揺れるウサギの耳がくっついていたのだ。
店長は曖昧に笑うも、嬉しそうに箱をカウンターに置き……その中から同じ耳を取り出した。

「今日はハロウィンじゃからのう♪ホレ、オマエさんも付けてみィ」
「………ガイコツとかのお面は無いんですか?」
「生憎、コレしか用意しとらんてからに〜」

人の良さそうな笑顔に…ま、仕方が無いのでだまされてやった俺は、それからの数時間を記憶に留め
ないよう…そう自分に言い聞かせた。
合図のラッパが広場で鳴らされると…最初の子供達を皮切りに後から後からやってきて…箱一杯あった
ハロウィン仕様の特製クッキーも、その数を減らし…残り二つになった所で、終了のラッパが聞こえた。
店長は当の昔に中へと引っ込んでしまい…俺もそろそろ店仕舞いをしようと、扉へと向かった時だった。

「トリック・オア・トリート」

と、くぐもった声がし…ガラス扉に人影が写った。
まだ子供が残っていたのか…?と思いつつ、俺はクッキー片手に扉を開けた。
其処には、子供にしては体躯の大きな…オレンジカボチャの男、ジャック・オ・ランタンが笑っていた。
手にしている籠には、お菓子が山と積まれており…全部の家を回って来たのだろう。
実に食い意地の張ったオバケだ。

「トリック・オア・トリート!」
「…このクッキーしか残ってないんだ、コイツをやるから…悪さするなよ?」

手にしている長い杖を大仰に振り回すカボチャに、特製クッキーを差し出せば…嬉々として籠を差し出すの
でその最上段にそっと乗せてやった。
カボチャは嬉しそうに、くるりと回る。
黒い衣装の裾がふわりと舞い上がり…それに合わせて杖の先に付けられたランタンの炎も揺れる。
クスクスと笑うカボチャの正体など、俺にはとっくに分かっていたから…腕を伸ばすと杖を押さえ、カボチャ
の動きを止めた。
カボチャは急に一定方向に引っ張られた為…バランスを崩しそうになり、慌てて籠を死守した。
その隙を突いた俺は、カボチャ頭をすぽりと抜き去り…果たしてその下から現れた顔は、予想通り……



「………ずるいぞサンジ!!」



夜の闇の中でもすぐに判る、特徴的な長い鼻。
ウソップは籠を足元に置くと、カボチャを取り返しに来た。

「ソレが無いと格好つかないだろーが!」
「だってよ…オマエの顔見えねェじゃん」

それになんでオマエが参加してんだよ…と突っ込めば、町の子供達が誘ってくれたとかなんとかと、ごにょご
にょ言い訳を始めるウソップ

「…菓子が欲しかっただけじゃネェのか?」
「ううっ!そ………そんなコト…………」
「じゃあ、このクッキーは要らないな」
「ホシイデス、スミマセン」

中身は子供達と変わらない…目の前のウソツキは、あっさり白状した。

「仕方がネェ ジャック・オ・ランタンだなァ」
「ウサギのパティシェには言われたくネェなァ……」
「ああ…コイツか?結構カワイイだろ」

ふわふわと揺れる感触が気持ち良く…結構気に入ってしまったウサギの耳。
そうか、俺もウサギ男の扮装してたんだよな…と思った俺は、カボチャ頭を持ったまま店内へと移動すれば…
頭を追って、ウソップも慌てて着いて来る。

「だから!頭返せ……って、うわ!?」
「……トリック・オア・トリート」

振り向き様に、細い腰を引き寄せ…耳元へとそう囁く。

「…俺様、菓子なんて持ってないぞ?」

籠の中身は貰った物ばかりだけど…アレでも良いのか?と言いたいのだろうが、生憎俺が欲しい菓子はその
中には存在しないのだ。
その菓子は、世界にただ一つの物。
柔らかくて、甘くて…口にすれば、魂まで蕩かしそうな程の物なのだ。



「……サンジ?」
「トリック・オア・トリートvvv」



もう一度、同じ言葉を繰り返せば…流石に鈍感なウソップでも気付いた様だ。






「…………頭返してくれよ?」
「それはもう、勿論vv」






それでも、頬を紅く染めながら…ウソップは優しい、甘いキスをくれた。
チュ、と小さな水音を立てて離れた唇は、本当に甘くて柔らかくて…どんな菓子よりも美味かった。

「……船…戻るな」
「ん……」

目元に甘さが残る表情に、このまま攫って行きたい衝動に駆られるも…場所が場所だけにぐっと堪えた。
カボチャ頭に戻ったウソップは、黒い衣装を翻すと…夜の闇へと消えて行った。
俺も扉のカーテンを降ろし、クローズの札を掛けると店内へと戻った。
残った最後のクッキーを手に、店長の部屋へと寄り…今日までの分の給料を受け取った。

「明日は出航なんじゃなァ…短い間だったが、助かったよ」
「いえ、こちらこそ。雇って戴けてありがとうございました」

ログが溜まるまでの短期アルバイトな俺。
明日にはまた、グランドラインの上だ。
別れを惜しむ店長に、深々と頭を下げた俺は…店を後にした。
僅かな間だったとは言え、こうして店で働くのは楽しかった。
そんな俺の手には、最後に残った特製クッキーと、ウサギの耳。
餞別だといって、店長がくれたのだ。
耳を付けてみると、本当に自分がオバケになったような気分になり…脚力を生かして、ピョン…と小さな跳躍
を繰り返しつつ…俺は港へと足を向ける。
先に戻っている筈の…カボチャ男を想いながら。





「………頭は返してやったから、さっきのはチャラだもんな♪」





ハロウィンの夜はオバケの悪戯に御注意をvv
悪戯する気満々のウサギ男は…長い影を石畳に映しながら、静かな町を闊歩していった。






                                                         ★END★











微妙なハロウィンとなってしまいました…間に合ってないし(^_^;)
でもでも、書きたかったんですよう!お互いに「トリック・オア・トリート」し合う二人が!!
現代設定と思って読んで貰えたら、やったあ!って感じです(笑)やはり私は、原作寄りの二人の方が
好きなんですよね〜vvvパラレルも好きですがvvv
ここまでお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました♪







                                                         2005/10/31



                                                       
ブラウザの戻るボタンでお戻りください