静かな午後…あまりに平穏な空気に、船内はいつになくまったりとした空気が流れていた。
トラブルメーカーのお子様組は、三人仲良く昼寝タイム。
剣士は剣の手入れ。
考古学者は私の隣で、寝椅子に横になり本を読んでいる。
キッチンの方からは甘い香りが漂ってきたから…そう、あと一時間もすればこの静けさも破られてしまうだろう。
ある意味貴重なこの時間に…私は航海日誌を記すべく、先程からペンを走らせていた。
いたのだが…






「どうしたの?航海士さん」
「え?ああ……うん、ちょっとね」





私が航海日誌を睨んだまま、何も書いていない様子にロビンが声を掛けてくれたが…私の曖昧な返事に、ふふ、とだけ微笑むとまた彼女は本の世界へと舞い戻って行った。
私はロビンのそんな気遣いに感謝しつつ…真っ白いままの頁を睨み付けた。
航海日誌は、余程の事が無ければ毎日書くようにしている。
その日の天候の変化。
気温、湿度、波の様子。
船の情態からクルーの健康面。
誰が見張りで何をどうしたか…等など、殆ど船の日記と言っても良いだろう。
それを毎日書く事によって、今後の航海の資料として。
そして…もしも私が、私達に死が訪れた後に…後世の者達が私達が何を成して来たか、を知るための。
ロビン風に言うならば、私達の『歴史書』を、書き記しているのだ。
最初は、そんな事思いも寄らなかったが…ソレを強く実感したのが、空島へ行く前にクリケットさんの所で読ませてもらった、モンブラン・ノーランドの航海日誌だ。





何百年も前の航海日誌




…それはもう、私にとっては何よりも変えがたい価値のある『宝』だった。
そして…あの航海日誌を読んだ日から、私の中で航海日誌の価値観が大きく変わったのだ。
如何に自分達の『歴史』を、この一冊のノートに書き示すか…ソレは、世界地図の次に私の目標となったのだ。
勿論そんな事、誰にも言っていないので…と言うか、言う必要は感じなかったので誰も知らないのだが………
私はノートを一旦閉じると、最初から捲ってみた。
丁度、冬島を出た辺りから書き始めた様で、気温差がそれを物語っている。




『〇/〇(mon)晴れ 気温3℃ 波高し 進路・南南西 見張り・ゾロ 船内:何時もと変わらず賑やか』




『〇/□(fri)晴れ後雪 気温ー2℃ 横波の後激しくなる 進路・取らず碇泊 見張り・チョッパー 船内:ルフィが壁を修理中に破る。木材を購入する事。特に変わりなく賑やか』




『〇/◇(snu)曇り後雪 気温‐1℃ 波穏やか 進路・南西 見張り・ウソップ 船内:変わらず賑やか』

どのページを捲っても、殆ど同じような記述の繰り返し。
違うのは進路や天候位で、特に船内の様子と来たら………
後世、この航海日誌を読んだ人は「なんてのんびりした海賊なんだろう」位の印象しか受け取らない筈だ。
もっと変化に富んだ日常なら、少しは変化もあろうと言う物だが…大きな事件に巻き込まれない限り、この船の毎日は賑やか、の一言で片付ける事が出来るからオソロシイ。

「うーん、何かこう…もっと斬新かつ意表をつく表現方法は…」
「悩んでるのね、何を書こうかで」

いつの間にか本を読み終えていたロビンが、そう話し掛けて来た。

「あははー、ロビンは鋭いわね。そうなのよね〜毎日書いてるとこう、同じ事の繰り返しって言う文面になっちゃってさ…や、同じじゃないのは分かってるんだけど…」

私の言わんとしている意味が上手く伝わったかどうかは分からないが、ロビンは柔らかな微笑を零す。

「そうね、仮にも未来の海賊王の『航海日誌』になるんですもの、ソレ相応の物にしないとね」
「そうよね…そうなんだけど、そう思うと余計に……ううう」

そう、ルフィが目指すのは『海賊王』なのだから。
後世の人々がこの航海日誌を読んで、海賊王の若き日に思いを馳せる……なんて事になりかねないから、ますますもって恐ろしいのだ。

「こう、毎日毎日『賑やかだった』で終わってたら、どれだけアホ揃いだったかと言うのを強調しているとしか思えないのよねぇ…かと言って、馬鹿正直に書く気にもなれなくって…」
「そうね。今朝からの出来事だけで、そのページ半分は埋まるわ」

真顔でそう言うロビンに、私も今朝からの出来事を反芻し…

「ううん、2ページ書いても今日の分は終わらないわ」

と返した。
さてどうしたものか…と、私が思案していると…男部屋のハッチが勢い良く開かれ、最初にピンクの帽子。続いて麦藁帽子。最後にバンダナが続いた。



「あーーーーーーっ、よくねたーーーーーっ!!!」



静けさは一瞬にして消え去り、船長の大きな声が響いた。

「チョッパー、きょうのオヤツはなんだ!?」
「うーん、この匂い…チョコとアーモンドの匂いがするよ!」
「今日は確か、三種類のクッキーの筈だぞ♪」

おお、うまほーーー!と叫ぶルフィの声に、後ろ甲板にいたゾロものっそり顔を出した。
さて残るは…と思いながら見ていると、キッチンの扉が開かれた。

「ん〜ナミッすわ〜〜〜んvvvvロっビンちゅわ〜〜〜んvvvvおやつですよ〜〜vvvvオウ、いたのか野郎共。お前らのは中だ」

私達用の銀のお盆に、今日のオヤツやら紅茶のカップなぞを乗せたまま、器用に階段を駆け上がってくるサンジ君。入れ違いに、キッチンへと吸い込まれていく男共。

「本日のリラックスおやつは、三種類のクッキーでございます。向かって右側は、ラングドシャ。真ん中がチョコレートとアーモンドのアイスボックスクッキー。最後はオレンジピールのクッキーとなっておりますvvvv」

優雅な仕草で紅茶をサ−ブし、サンジ君は一礼をする。と、風の様にキッチンへと舞い戻って行った。何故ならば…


「クォラッ!こんの…クソゴム!!ソレはまだ仕込みの途中だ!!喰うんジャネェッて言ってンだろ^−−−−−がッ!!!」
「あ、悪ィ。もう喰った!」
「って言ってる傍からお前らまでっっ!!!」
「よーーーし、お宝は頂いた!!逃げるぞチョッパー!!!」
「ア、アイアイサー!!!」


どたばたと船内を逃げ回る三人を、追いかけるサンジ君。そんな騒々しさを子守唄に、昼寝を決め込むゾロ。
本当に、毎日毎日同じ事の繰り返しで……






「ウン、やっぱウチの船はこうじゃなくっちゃ!」
「そうね」





ロビンが紅茶のカップを軽く持ち上げたので、私もソレに習い…小さく乾杯した。



「変わらないアホウ共に」
「変わらない毎日に」



勿論永遠普遍な物なんて、無いに決まっているけれど…それでも、こんな毎日が続きますように、との祈りも込めて、私は今日も航海日誌に書き込む。













今日も一日、賑やかだった。













…と。










                                         END
















なんだか久し振りの書き下ろしになってしまいました。(^_^;)
カミサマって、本当にいきなり光臨されるんですもの(苦笑)いえいえ、降りてきて頂けるだけで
ありがたいですvvv
きっと彼らの航海日誌は毎日が楽しい事で埋められそうですが、紙代が勿体無いからこんな風
に書いてそうだなぁ…と妄想したのが始まりでした(笑)
きっと事細かに書いていたら…サンジとウソップがサンジとウソップが…って書いちゃいそうなん
ですよナミちゃんたら☆…スンマセン、私の妄想ってどうしてこう、妙な方向に……爆!

                                                    2006/10/10


                                          ブラウザの戻るボタンでお戻り下さい